債権総論
第2章 債権の効力 有斐閣双書
第一 序論
債権者と債務者間の関係から生じる問題
1給付保持力 2請求力 3訴権 4強制執行
5損害賠償請求権 6契約解除権 7受領遅滞
債権者 4000万円相当の土地の引渡請求権 債務者
買主A…………・売主B
・BからAに土地の引渡がなされた場合には!
↓
例えばAの引渡し請求権が時効消滅していても、Aはこの土地をBに返還する必要がない。
─1債権者の給付保持力
・BがAに履行すべき時期に土地の引渡しをしない場合には!
↓
AはBに口頭あるいは内容証明郵便等で履行の請求ができる。
─2債権者の請求力
AはBを裁判所に訴え、判決をもらって強制執行できる。
─債権者の3訴権、4強制執行=現実履行の強制
Aは土地が引渡されなかったことによる損害の賠償請求(例えばその土地のうえに家をたてるため請負業者に払った申込み金50万円)ができる。
─債権者の5損害賠償請求
・AB間が例えば売買のような契約による場合には!
この土地を購入したBは、Aとの契約を解除してもっと良い売主を見付けられる。
─6債権者の契約解除権
・Bが土地の引渡しを行なう準備を整えたのに、Aがそれに応じない場合には!
─7債権者の受領遅滞
2 債権に基づく物上請求権権の可否
3 債権侵害
4 自然債務と責任なき債務
第2 現実履行の強制
414条
直接強制 414T
代替執行 414U
間接強制 民訴
判決代用 414U但し
不作為債務の強制履行 414V
与える債務 直接強制
為す債務 作為 代替的作為
不代替的債務
法律行為を為すべき債務
不作為 有形の違反状態 有り 強制履行
無し 間接強制
損害賠償
第3 債務不履行と要件/効果
債務不履行 415条
債務不履行:債務者が正当な理由がないのに債務の本旨にしたがった履行がされいこと
履行遅滞 履行不能 不完全履行
要件
履行遅滞 415条前段
@債務が履行期に履行可能
A履行期の徒過
B履行の遅延が債務者の責に帰すべき事由に基づくものでないことを債務者が証明できな いこと
C履行しないことについて違法性阻却事由があること
@ 社会通念上履行可能
A 期限 412条
確定期限 期限の到来 取立債務については催告のとき T
不確定期限 期限の到来+債務者が知るあるいは債権者の告知
期限の定めのない債務 履行の請求 消費貸借のときは催告後相当期間経過
B 故意
過失 原則 抽象的軽過失 例外遅滞後は不可抗力でも責任を負う
信義則上これと同視すべき事由
履行補助者の故意過失 利用補助者の故意過失
根拠と射程 論点 転借人の故意過失は債務者の故意過失と同視できるか
C 同時履行の抗弁権
留置権
履行不能 415条後段
@履行が不能なこと
A履行の不能が債務者の責に帰すべき事由に基づくものでないことを債務者が証明できな いこと
B不能について違法性阻却事由がないこと
不完全履行 415条前段
@履行期に履行がなされたこと
A債務の本旨にしたがった履行がなされてないこと
B履行の不完全が債務者の責に帰すべき事由に基づくものでないことを債務者が証明できないこと
「債務の本旨に従わない」類型の例 1給付された目的物に瑕疵がある
2不完全な履行によって債権者の財産に損害を与えた
3不完全な履行によって債権者の生命身体に損害を与えた
給付義務
付随義務
信義則上の義務
論点 安全配慮義務の問題 最高裁昭和50年判決等
効果 損害賠償
・範囲
債務不履行と相当因果関係にたつ全損害の原則 416条1項
通常損害 416条1項
基礎とすべき特別事情の範囲 416条2項
予見可能の判断時 債務不履行時
基準時(填補賠償時の目的物の価格)
有力説 保護範囲説
・その他 損益相殺等
過失相殺418
損害賠償額の予定420T
金銭債務の特則 419条
第4 受 領 遅 滞
413条
意義
債務の履行につき受領その他債権者の協力を必要とする場合において、債務者が債務の本誌に従った提供をしたにもかかわらず、債権者が協力しない、あるいはできないために、履行が遅延している状態において、一定の効果を発生させるとした制度である。
趣旨
不作為債務を除けば、作為債務/財・サービスの提供については、債務者の協力(最低限受領)が必要である。受領遅滞により、履行が完了せず、保管費用、保管の煩雑性など債務者に不利益が生じる。債務者が自分の義務を尽くしたのに、そのような不利益を負担するのは公平か?債権者にも何らかの責任を負わせるべきではないか。
性質 受領遅滞の法的性質をめぐる争いがある。
法定責任説:信義則に基づく法定責任である
債務不履行説:債務不履行の一種で、信義則上の給付協力義務を負う。
折衷説:売買・請負・寄託では債権者に信義則上の受領の債務を認める。
理由
法定責任説:債権者は債権を有するのであって義務はない、あくまで公平の観念から認められた責任にすぎない。多数説
債務不履行説:両当事者の信頼の上にたつ一種の協同体である。有力説
判例
判例:戦前法定責任説(大判大4/5/29)、下級審では債務不履行説もあり。最高裁は暴論において法的責任説(最判40/12/3民集40/12/3ゴルフのクラブハウスの器具を製作して取り付けるという請負契約において、請負人が注文者の受領遅滞を理由にして損害賠償、解除を求めたのに対し、法定責任説を採る)を支持、ただし信義則上の引き取り義務を認める判例(最判46/12/16民集25/9/1427 硫黄鉱石売買契約において、契約期間中採掘した鉱石全部を売り渡す約定があった場合には鉱石引き取り義務があり、引き取り拒絶は債務不履行にあたるとした)もある。
要件
1 弁済の提供 債務の本旨にしたがった提供 詳細は弁済で。
2 債権者が提供の受領を拒み、または受領ができないこと。
受領拒絶の例、買い主が目的物の引き取りを拒絶、使用者が工場を閉鎖して労働者の就業を拒絶
3 帰責事由
債務不履行説のみが要件とする。債務不履行の一種として受領遅滞をみるので、当然の帰結である。
効果「遅滞の責に任ず」の解釈
@ 法定責任説と債務不履行説で共通に認められる効果
債権者遅滞後の不能は不可抗力に基づく場合でも債権者の責めに帰すべき履行不能となること。なお、危険負担536条参照
債務者は目的物の保管似つき注意義務が軽減される。
債務者は、増加した保管費用/弁済費用を債権者に請求できる485条但書き。
A 法定責任説は受領遅滞の効果とするが、債務不履行説は弁済の提供の効果であって受領遅滞の効果として位置づけないもの
債務者が不履行責任を免れる。492条
債務者が利息の支払い義務を免れる。
B 債務不履行説のみが認める効果
損害賠償
契約の解除 受領拒絶のときは相当期間を定めて受領を催告、あるいは受領不能のときはただちに、契約解除(541、543条参照)
両説の実践的評価
法定責任説からは、債務不履行説は帰責事由を要する点で債務者に不利であり、効果の点では、債務者は供託(494条)や自動売却(497条)でリスク回避できるから、解除を認められなくても不都合はないし、反対債権の債務不履行を理由にして契約解除や損害賠償ができるから、債務不履行説を採る実益もない。供託等については弁済で扱う分野。
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