法と道徳
一 社会規範

  行動指針
   法規範 道徳

二 法と道徳 認識論問題

 近代以前(未開、古代、中世) 法と道徳の未分化 ? 分化の例 ソフイストのノモスとphysisの区別、ローマ法、キリスト教自然法論
 近代 法の自立性
    トマジウス・カント
    トマジウス(ドイツ啓蒙記自然法論者) 外面性 内面性と強制可能性との連動
人間生活の最終目標である幸福の成就が自然法の任務であり、狭義の道徳と実定法の目的は、自然法(広義の道徳)に統括されていく。
    カント 合法性(Legalitaet) と 道徳性(Moralitaet) 義務づけの仕方の違い
     道徳 自律的人格の自己立法「汝の意思の確立が常に同時に普遍的な立法の原理として妥当しうるように行為せよ」 法は広義の道徳に統括されていく。
背景 個人の思想・良心の自由を外的権力から護る。
   宗教改革による道徳の内面的主体化、近代の中央集権的国家と法の国家化(M.ウェーバー)へと向かう近代市民社会の形成確立に向かう時期。近代市民社会は、資本主義的な商品交換を社会関係の骨格とする。

三 法と道徳の分離・非分離―リーガルモラリズム問題―

1 ハート=デブリン論争
   1950年代のハートデヴリン論争
  1957年ウォルフェンデン報告(同性愛行為の不処罰と売春につき公然路上勧誘の場合に限って処罰する)
  デヴリン判事 公共道徳の存在 
         社会の崩壊を妨げるための公共道徳の存在意義
  ハート リーガルモラリズム批判
      一つの道徳を、公共道徳として批判することの問題点。
     但し 不快原理による社会法益の保護

2 ハート=フラー論争
【事例】
 ナチスの法律の下で、悪意によって夫を密告した妻に対する戦後の裁判について、遡及処罰を用いて妻を処罰すべきか、それともナチスの法律を無効とする(その結果妻は処罰される)べきかについて問題となった。
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 ハート 遡及処罰を用いて、妻を処罰すべきであると考えた。
 
最小限の自然法 生命身体・財産・契約保護に関する基本的なルール(人間活動の固有目的 生存「傷つきやすさ」「おおよその平等性」「限定された利他主義」「資源が限られていること」「理解力と意志の強さが限られていること」)
ハートの法道徳分離論の意義
 自然法の再生に対抗して、自由主義(功利主義的なもの)の伝統と結び付いたベンサム、オースティン以来の法実証主義の擁護
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フラー 法律の無効の構成で、妻を処罰する。
手続き的自然法 法の内在道徳/internal morality 義務道徳(←→熱望道徳) 
法への忠誠
 8個 一般性、公布、遡及効の禁止、明確性、無矛盾性、不可能を命じないこと、恒常性、定立されたルールと公権力の行動の一致。

 技術的法則との類似。

3 現代法におけるパターナリズム 
【事例】
  シートベルトやヘルメットの着用強制、年金ついたて、ギャンブル禁止、薬物規制等。
パターナリズム:本人自身の利益のためということを理由におこなわれる自由への干渉
リベラルな社会の前提となる自律的な人格の理想に反するパターナリズム的な干渉は正当化されない。

ミルの危害原理(harm principle)
  文明社会の成員に対し、彼の意志に反して、正当に権力を行使しう
  る唯一の目的は、他人に対する危害の防止である。彼自身の幸福は
  物質的なものであれ道徳的なものであれ、十分な正当化になるもの
  ではない。 
 批判 現代では危害原理は自由主義の正当化としては不十分ではないか
 best Judgeへの疑問
 ハート 人をその人自身から護ること。

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参考文献
カント『道徳の形而上学』
ミル『自由論』
Hart, Positivism and the Separation of Law and Morals, 71 Harv. L. Rev. (1958).
ハート『法の概念』(1976年、矢崎光圀監訳、みすず書房)
フラー『法と道徳』(稲垣良則訳 有斐閣 1967年)
Fuller, Positivism and Fidelity to Law-A Reply to Professor Hart, 71 Harv. L. Rev ( 1958 ).早稲田法学会誌28巻。
布川玲子「法と道徳の区別理論の検討―H.L.A.ハートとL.L.フラーの論争―」
G. Dworkin, Paternalism, in R. A. Wassersrom ed., Morality and the Law, pp.107).
森村進「法と狭義の道徳」法哲学年報1987年。
中村直美「法と道徳」『法哲学提要』